「母親を許せない」「いつまでたっても親への憎しみが消えない」
親に対する怒りや憎しみを拭えず、親との関係についてカウンセリングで相談をされる方は少なくありません。
先日も、あるクライエントさんから「最近母と電話でやりとりをする度に、昔された嫌だったことを思い出して責めてしまい、ちょっと辛くなってきた」「思い出すとどうしても許せないんですよね…」という相談を受けました。
親を執拗に責めてしまい、そんな自分にも辛さを感じる。
これは、カウンセリングで幼少期の家族関係を振り返り、回復に向かうプロセスで起きやすい問題なので、ブログに書いてみます。
最近は「毒親」という言葉が広まっている通り、カウンセリングを受けなくても、ネットや本などを読んで幼少期の親子関係を振り返る機会は増えたと思います。
「毒親の本を読んで、まさに私のお母さんだ!と思って驚きました。私って、大変だったんだなと今更ながらに思えました」
こんな風に語る方はとても多いです。
これまで、母親に対する疑問、不満はそれなりに感じていたものの、「確かにお母さんの言い方はひどいけど、まあ、私にも悪いところはあったしな」みたいに、どこかで母親を責めきれずにいる人が多いんですよね。
でも、実際に本などを読んで自分を客観視してみると、「やっぱりお母さんはおかしい!」と思い直す。
カウンセリングを受けている方は特にそうだと思います。
親との関係を言葉にして、改まってじっくりと人に話す機会なんて、日常ではそうそうないはずです。
話してみるとわかるのですが、忘れていた子どもの頃の記憶がけっこう蘇ってきます。
「私が転んで膝から血を流して泣きながら帰ってきたのに、お母さんは怒るだけで何もしてくれなくて。仕方なく公園の水道で足を洗ってたら、近所のおばちゃんが心配してマキロンと絆創膏をもってきて手当してくれたんです」
「うちのお母さんもあのときのおばちゃんみたいに優しかったらなーって、強く思ったのを思い出しました」
こうやって、色々なことを思い出していくと、当時の感情も一緒に蘇ってきます。
寂しさ、辛さ、孤独、悲しさ、無力感
それと同時に、親への不満や怒りをはっきりと自覚する方も多くいらっしゃいます。
冒頭のクライエントさんも、まさにそうです。
カウンセリングで、不満や怒りをはっきりと自覚した。
では、この不満や怒りをどのように扱っていくのか。
ここが回復に向かうプロセスの中で、ひとつのテーマになってきます。
※ブログ執筆者 山﨑正徳(公認心理師・精神保健福祉士)のプロフィールは こちら
一度は謝ってくれたけど・・・。本当に反省してんの?私のこの気持ち、わかる?
当然ですが、怒りや不満は、相手に伝えてみて、わかってもらうことで楽に感じますよね。
親との関係にもよりますが、気づいた怒りや不満を、直接親にぶつけてみる。
こういう方法を選択するクライエントさんも少なくありません。
そこで、親が気まずそうにして、「私も当時は忙しくていっぱいいっぱいで。ごめんね」なんて謝ってくれた。
これだけでもだいぶ気持ちは違いますよね。
「親に伝えてすっきりしました。カウンセリング受けて良かったです」
嬉しそうに、こんな報告をしてくださる方もいます。
でも
これは体験した方にはわかることですが、なかなか一筋縄ではいかないことが多いのです。
「あの後、母と電話したんです。それで、ちょっとその日に仕事で嫌なことがあったから、それを話してみたんですよ。聴いてもらおうかなと思って。そしたら、『お世話になってる上司のことを悪く言うもんじゃない』『お母さんの時は働きたくても働けなかった』とか言うんですよ!」
「この前の私の話を聴いてたの?何を謝ったの?そういうところなんですよ。ただ聴いてくれればいいのに、どうしてかぶせてくるの?本当に腹が立ってすごく怒っちゃいました」
「そしたら、なんて言ったと思います?『そのことはもう謝ったじゃないの』ですって!謝って済むこと?本当にびっくりですよ」
これは本当に辛いことで、皆さんやり場のない怒りや悲しみを抱えて途方に暮れます。
いくら言っても噛み合わないんですから、仕方のないことです。
怒っても怒っても伝わらないし、逆にしつこいとさえ思われてしまう。
「ちゃんと精神科の先生に相談してる?最近いつも怒ってて、薬が合ってないんじゃない?お父さんも心配してるわよ」なんてことを言われてしまった人もいます。
まさに「最悪!」ですよね。
いくら怒っても仕方がないこと、もうダメなことはわかっている。
本当はお母さんと仲良くしたいし、大切な母親だと思っている。
でも、腹がたってどうしても責めてしまう。
責めても少しもスッキリしないし、最近は罪悪感も強くなっている。
もういい加減、こんなことはやめよう。
言ったって無駄だし疲れるだけだ。
波風立たないように、普通に接しよう。
すごく優しくしてくれたこともあったし。
でも、ムカつく。許せない。
こんな風に、親と接する度にあなたの気持ちは揺れに揺れ、疲弊し、コントロールが難しくなります。
あなたは、ただただ「わかってほしい」
淋しかったこと
ひとりぼっちだったこと
もっと愛されたかったこと
ただ、それだけなのに。
今日もこんなに傷ついています。
親を責めれば責めるほど、あなたが傷つくことになる。
あなた自身も気づいていることを改めて伝えることになりますが
今のままお母さんを責め続けても、あなたの心の傷を癒やすことはとても困難なことなのです。
それどころか、お母さんを責めれば責めるほどに、あなたは自分で自分を傷つけてしまいます。
わかってもらえない。
聴いてくれない。
何を言っても無駄。
無力感、不全感、悲しみ
これは、あなたが幼い頃からずーっと感じてきたものです。
だから、今のやりとりを続ければ続けるほど、あなたは幼少期からの母親との関係を再体験することになり、より心の傷が深くなる。
そしてさらに母親を責めてしまう悪循環に陥ります。
それだけではありません。
「母を責めている時の私の口調が、母が私や父を責める時の口調に似てるんですよ。それが本当に辛いんです」
感情的になる自分を母と重ねてしまい、強い嫌悪感や罪悪感を覚え、余計に苦しむ。
本当に辛いことです。
もし今、あなたがこの状態に陥っているとしたら、私はとても心配に感じます。
だから、今のあなたに伝えたい大切な話をします。
「母親との距離のとり方」を見直す。
あなたが今の状態から脱するためにまず考えてほしいのは、「母親との距離のとり方」です。
母親に対する怒りが強いし、電話すると必ずムカついてしまう。
でも、特別な用事がなくても、1~2週に一回は電話をする。
こっちからかけたり、母からかけたり。
あなたはこのような関係を続けてしまっていませんか。
もしそのような状況でしたら、あなたが今後親とどう付き合っていくべきか、一度カウンセリングを受け、じっくりと整理してみることをお勧めいたします。
共依存の親子関係というのは、相手に対する怒りや嫌悪がありながらも、「相手を変えよう」としてコントロールしあう距離感が定着していることが多いものです。
「本当に腹が立ったから、今度こそガツンと言おうと思います」みたいに、変わらない相手を変えようとして、より近づいてしまいます。
だから、いつまでも傷つけ合う関係が続き、脱却することが難しいんですよね。
そんなあなたに必要なのは、まずは「母親」という刺激を生活から少しでも減らす試みをしてみること。
ここから考えてみると良いかもしれません。
親との関係で悩んでいるクライエントさんの多くは、関係を整理し、距離を見直しています。
実家に帰る度に具合が悪くなる人は、無理に実家に帰ることはしない。
電話で雑談になる度にカチンと来て母を責めてしまうなら、電話はやめて、用件だけメールで済ませるようにする。
母から頻繁にLINEが来るなら、通知をオフにして、確認と返信は1~2日に一回にする。
母と同居なら、土日はできるだけ顔を合わせないように部屋で過ごすなどして工夫する。
こうやって、適度な距離感を模索する人もいれば、当面は連絡を絶つ選択をする人もいます。
あなたにとっての「安全な親との距離感」を見つけること。
それは、自分のことを大切にするための行動でもあるのです。
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▶母からの電話が苦痛。電話に出ないと「冷たい」「ひどい娘」と責められます。やっぱり私はひどい娘なのでしょうか?
あなたの心の傷を癒すことができるのは、母親ではない。あなた自身である。
「親に対しては本当に色々と思うことが多いです。でも、もう親を期待するのはやめました。諦めました。親とは今後も付き合いますけど、できるだけ普段は事務的な会話にして距離を置きます。あと、子どもの頃に淋しかったこととか辛かったこととか、そういうのは自分で、カウンセリングでなんとかしなきゃなと改めて考えた一週間でした」
「お母さんの子どもの頃も家の中が大変だったみたいですから、きっとお母さんも傷ついてきているんですよね。前は『自分が子どもの頃辛かったんなら、私に同じことしないでよ!』と思って腹がたちましたけど、今は仕方がないかなと思ってます。お母さんもカウンセリングを受けていたら違ったのかなとか。私はカウンセリングがあるから、これから自分で自分を大事にしないといけないなと思ってます」
親にわかってもらいたい気持ちを持つのは当然です。
でも、それが叶わないことを受け入れるプロセスを、回復の過程で多くのクライエントさんが経験しています。(「諦めないと解決しない」と言っているわけではありませんよ)
それはつまり、自分の心の傷を、母親にわかってもらうことで癒そうとするのではなく、自分自身で癒していこうと前を向くことでもあるのです。
あなたは、もしタイムスリップして幼少期の自分に出会えるとしたら、なんと声をかけてあげますか?
なにをしてあげたいですか?
子どもの頃、あなたがわかってほしかった淋しさ、辛さ、悲しさ
幼かった頃のあなたの一番の理解者は母親ではないかもしれない。
それは、大人になったあなた自身なのではないでしょうか。
「大変だったね。でも、よく頑張ったよ」
「さみしかったね。愛されたかったんだよね」
「まあ、僕なりに一生懸命やってきましたしね。彼女もいるし仕事もある。あの環境の中、よくやってきたなと自分をほめたい気持ちも出てきました」
自分にそんな声をかけてあげられるようになると、今よりも自分のことを大切にできるはずですよ。
あなたの心の傷を、あなたが自分で癒す。
私は、あなたがそれができるように、お手伝いさせて頂きます。
少しずつでいいんです。
一緒に取り組んでいきましょう。
「カウンセリングを受けてみたいな」と思ったら、いつでもお気軽にご連絡ください。
お待ちしていますね。
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