「子どもの頃に母親から受けた扱いで、ずっと心のモヤモヤが消えない」
「母親への怒りが強くて、今も喧嘩が絶えなくて困っている」
過去に母から受けた心の傷や、現在の母との苦しい関係などでカウンセリングを利用される方は少なくありません。
皆さん、それぞれの苦しさを抱えてカウンセリングにお越しになりますが、「今の自分の生きづらさは母との関係が影響しているはず」とはっきり語る方がいる一方で、「自分の問題を母のせいにして、私はずるい人間なのではないか」という辛い葛藤を語る方もいます。
「今の生きづらさは母のせい」という思いと「何でも母のせいにする私ってどうなの?」という相反する苦しい思い。
このブログを読んでいるあなたも、同じような葛藤を抱えて悩んでいませんか。
もしそうであれば、今日はその葛藤とどう向き合うべきかについて解説していきますので、読んでみてください。
まず、このような問題で悩む方の相談から紹介していきます。
※ブログ執筆者 山﨑正徳(公認心理師・精神保健福祉士)のプロフィールは こちら
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「何でも母のせいにしてしまいそうで、そんな自分が怖くなります」
母は、何もかも自分中心の人でした。
自分が正しいと思ったことを絶対に曲げないで押し付ける人で、習い事も、着る洋服も、あとは家で見るテレビとか、そういうのも母が何でも決めてきました。
私は女の子っぽい恰好をしたかったんです。
でも、母はそういうのが嫌だったのか、いつも男の子みたいな洋服を私に着せるんです。
スカートなんて子どもの頃に履いたことなくて、友達を見てうらやましいなと思っていました。
中学校、高校に上がっても、母の私への干渉はずっと続いて。
部活も、進路も母の言いなり。
父はほとんど家にいないんですよ。
毎日遅い時間に帰ってきて、それで母と言い合いになってたりして。
母も父の仕事の都合で慣れない土地に来て、それで父も毎晩帰りが遅くて、だいぶ大変だったと思います。
もちろん、父は私なんかにほとんど関心を示さないから、私を助けてなんてくれません。
私は、母に怒られないように、母に少しでも機嫌よくいてもらうために頑張っていたと思います。
今は、母も高齢でだいぶ弱りましたから、私も反撃します。
時々母を言い負かすことだってあります。
でも、私が受けた心の傷はずっと残っています。
寂しかったんですよね。
大学でも、会社でも、そして今もそうです。
人間関係がうまくいかなくて。
人の顔色ばかり窺うし。
人の言葉にすごく影響を受けるし。
自分が何をしたいのかがよくわからないし。
こんな私になったのは、間違いなく母のせいだ!と思いますよ。
もっと大事に育ててくれたら、私には別の人生があったんじゃないかって。
そう思います。
今、母とは普通に付き合っていますけど、心の中では許していません。
でも、それでいいのか?という気持ちもあって。
こうやって、何でも母のせいにしているからうまくいかないんじゃないか?って。
もっと私が前向きに捉えていれば、私はこんなんじゃなかったんじゃないかな。
私なんかより大変な人はたくさんいるはずですから。
なんか、自分の問題を全て母のせいにしてしまう自分が、すごくずるい人間に見えてきます。
こういう気持ちって、どうしたらいいんでしょうか…。
母親との関係をテーマにカウンセリングを利用されている方の声を切り取って紹介いたしましたが、読んでみていかがでしょうか。
同じように親子関係で傷つき、その影響を今も受けながら生きている方にとっては、「すごくよくわかる!」と言いたくなる話なのではないかと思います。
母との関係で傷つけられてきた。
そして、今もその影響で生きづらさを感じて苦しんでいる。
もしあなたがそのような状況であれば、「私がこうなったのはお母さんのせいだ!」と憎しみや怒りを覚えるのは、とても自然なことだと思います。
ただその一方で、「本当にお母さんのせいなの?」「あれもこれも全部家族のせいにしてるけど、本当は私がダメな人間だというだけのことなのでは?」という思いが生じることも、これもまた尤もなことです。
そのような葛藤自体、本当に辛く、悩ましい問題ですよね。
あなたは、とても真面目で優しい方なのだと思います。
そして、真剣に自分と向き合うことのできる方なのだとも感じます。
だからこそ、あなたが抱いているその葛藤について、私の話を聴いて頂きたいです。
ここから解説していきますね。
怒りを十分に吐き出してからでないと、気づくことのできない気持ちもある。
「今の時点では、ひとまずお母さんに悪者になってもらいませんか?」
これは、このような悩みを抱えるクライエントさんに対して、私がよくかける言葉です。
「今の私の生きづらさは母親のせいだ!」という強い怒りや憎しみがあるなら、まずはその怒りや憎しみを十分に聴かせてもらいたい。
だから、まずはお母さんに悪者になってもらって、思う存分にカウンセリングで吐き出してもらいたいと私は思っています。
まあ、そう言われても戸惑うとは思いますが、母親に一旦悪者になってもらうことには、明確な目的があります。
それは、あなたがより深く自分の気持ちに気づくためです。
例えば、遊園地で迷子になってしまった子どもを必死になって探し回るお母さんが、ようやくお子さんを見つけた時。
「どこいってたのよ!!絶対にお母さんの側を離れないでって言ったでしょ!もう!ダメよ!」
子どもを見つけた瞬間、ついつい強い口調で叱ってしまうことはありますよね。
お母さんは初めに子どもに怒りをぶつけましたが、お母さんが感じていたのは怒りだけではありません。
「本当に、お母さん心配で心配で…。良かった、見つかって」
子どもを探すお母さんは、ただ怒っていただけなのではなくて、本当はすごく心配で、不安で不安で仕方がなかったのです。
だから「心配させないでよ!」とお子さんに強く怒ってしまったのです。
このような気持ちは、とても自然なものですよね。
つまり、怒りの背景には、別の様々な感情があるのです。
そして、その本当の気持ちに気づくためには、心が強い怒りに支配されている状態では難しいということです。
まずは先に、あなたの中の怒りをきちんと吐き出すこと。
嫌だったこと、辛かったことを思い出し、それを言葉にして、怒りや恨みをカウンセラーに思う存分聴いてもらうこと。
まずはここから始めてほしいのです。
カウンセリングで十分に気持ちを吐き出していくと、怒りが少しずつ和らいでいきます。
その過程で、あなたは怒りの裏側にある本当の気持ちに気づくかもしれません。
「私って、本当はすごく悲しかったんですね。今もすごく悲しんでいます」
「寂しかったんですよ。わかってほしいんです。私が寂しかったこと。お母さんにもっと大事にしてほしかったんです」
あなたの怒りの裏側には、一体どんな思いがあるのでしょうか。
そこには、どんなあなたがいるのでしょうか。
母親を責めたい気持ちがあるということは、それはすなわち、母親に期待していたものがあるのです。
あなたは、お母さんにどうしてほしかったのでしょうか。
どんな言葉をかけてもらいたかったのでしょうか。
あなたが、怒りに支配されていることで気づくことができなていない「本当のあなた」
それを見つけ出してあげることが必要で、そのためにも、私はこう言うのです。
「今の時点では、ひとまずお母さんに悪者になってもらいませんか?」
自分を癒す過程で、母親への憎しみが哀れみに変わることもある。
カウンセリングの中で、まずは怒りを安全に解放していきます。
自分の本当の気持ちに気づき、癒されていない様々な感情を知り、それらと向き合っていくのです。
それにより、あなたは母親への怒りと、母を責めることへの罪悪感との狭間で苦しんでいた日々から徐々に解放され、過去ではなく今を生きることができるようになっていきます。
今の生活がうまくいかない度に母を恨み、そしてそんな自分を責めていた毎日から卒業することができるのです。
そうすると、クライエントさんの心の中で、母親や家族に対する気持ちの変化が生じてくることがあります。
「そういえば、お母さんも『私は末っ子で、親から全然関心をもってもらえなかった』とか、よく私におばあちゃんの悪口を言ってたよな…。そうか、お母さんも私と同じように傷ついてたんだな」
「私も子どもをもってわかるんですけど、育児ってすごくプレッシャーですよね。父が職を転々とするし、パチンコばかりやって家のことをなんにもやらなかったから、お母さんも相当ストレスだったんだと思います。だから私や兄に対していつもキレていたんだろうなと思うんです」
このようにして、母親に対する理解が深まっていく。
それに伴い、怒りや恨みが、母への哀れみのような気持ちに変化していくこともあるのです。
「大変だったんだな」
「お母さんなりに、子どもを思って一生懸命やってたんだろうな。まあ、私にとっては迷惑でしたけど(笑)」
ここまでくると、「なんとか母にやり返してやろう!」「どうにかして私の辛さをわからせてやりたい」という気持ちよりも、
「過去は過去として、これからどう生きていくのかは自分の問題だな」という、「前向きな諦め」のような思いに包まれ、多くのクライエントさんが過去を切り離して前を向く意識を持つようになります。
「相反する二つの思い」が意味するものとは?
ここまで読んでいただいて、概ねのイメージはつかんでいただけましたでしょうか?
「母親のせいだ!」という気持ちと「母親のせいにする私はずるい」という気持ち。
今あなたが二つの思いに挟まれて苦しんでいるなら、どちらの気持ちも大切にしていただきたいです。
何が良いのか悪いのか、というよりも「あなたの中に二つの相反する思いがある」ということ。
この事実がとても大切で、それこそがあなた自身なのです。
もしかしたら、あなたは
「許せない」と同じくらい、「感謝している」のかもしれません。
「母を許せない」と思っている自分のことを許せないのかもしれません。
誰に対しても、怒りではなく罪悪感ばかり感じてしまうのかもしれません。
「どうせ私が悪いに決まっている」という考えが抜けないのかもしれません。
あなたの今の相反する思いを理解していくことで、より自分のことを理解することができます。
だから、繰り返しますが、今はその二つの気持ちを大切にしてくださいね。
回復の責任は、親ではなくあなた自身にある。
最後に、ひとつだけ大切なことを付け加えておきます。
「親を許せない」
「今の私がこうなったのは親のせいだ」
「親がもっと私をちゃんと愛してくれたら、私はきっとこうならなかったはずだ」
親を許せないなら無理に許す必要はないですし、怒って恨んで生きるのも仕方がないことだと思います。
ただ、これからのあなたの人生の責任は、親ではなく、あなた自身にあります。
「私がこうなったのは親のせいだから、私が毎日子どもにキレてしまうのは仕方がない。悪いのは私じゃなくてお母さん」
もし、あなたがこのようにして、今の課題を全て親の責任にしてしまうなら、あなたはきっと今後も親をより強く恨み、そしてそんな自分を心のどこかで惨めに思いながら生きていくことになるかもしれません。
確かに今のあなたを苦しめる問題の根本の原因は、親にあるかもしれません。
ただし、その課題にどう取り組むかの責任は、あなた自身にあるのです。
これからの人生を、あなたがどう生きていきたいのか。
何かあるたびに親を憎みながら生きていくのか。
親を許せないけど、うまく切り離して自分の人生を生きるのか。
親と新たな関係を作り直すのか。
他にも色んな選択肢があると思いますが、何を選んで生きていくのか、その責任はあなたにあります。
だから、諦めないでください。
自分のことを大切にしてください。
私は、あなたが新しい人生を歩んでいけるように、精一杯お手伝いをさせて頂きたいです。
いつでもご相談をお待ちしていますので、お気軽にご連絡ください。